1位は「選ぶ」のか「決める」のか

日本最大洋楽メールマガジンを発行するmeantimeのサイト上で、90年代投票というものが行われています。


これは90年代にアメリカのBillboardのTOP40に登場した全シングル曲の中からメルマガ読者の投票で1-50位を決めようという試みで、1位を独走した誰もが知っている大ヒット曲から40位に1週だけ登場した小ヒットまで、投票対象となる楽曲は実に1808曲に及びます。


まあ、90年代Billboardを追い駆け続けた人か夏休みで暇を持て余している人、或いは余程のカウントダウン・マニアでも無い限り、投票をコンプリートさせるのは至難の技でしょう。斯くいう僕も自分が聴いていたまさにリアルタイムのディケイドですし、興味は凄くあるんですが、果して50曲を選んで投票まで辿り着けるかどうか…。


しかし、投票に興味が無い人には投票ページだけでも見て貰いたいと思います。ここから前述した全1808曲の曲名・アーティストや該当楽曲の最高位・初登場週・TOP40圏内に留まった週など、あらゆるデータが詰まったPDFファイルをダウンロードできるの。
資料として、凄く便利ですよ、これは。


meantimeを支えるスタッフであるしんかい大先生はまべさん、更には「時計仕掛けのグランジ」のスタッフであるdaboyさん、そして僕など、一定レベルを突き抜けた音楽マニアになると、このチャートデータを当然のように本で持っていたりするわけですが、こうして1808曲タイトルが並べてある光景自体、普段は余り目にしないものですし、「あー、こんな曲あったなあ」と思い出しながら眺めているだけでも、結構楽しめるんじゃないかと思います。


僕も含め、「時計仕掛けのグランジ「meantime」の各スタッフさんは、同じ音楽好きでも「チャート」という特定の指標に目を配りながら音楽を追い駆け続ける人種なわけで、この聴き方における最大の魅力は「音楽を通じて時代や文化が見えてくる」という点にあるんですよね。


勿論、僕だって1808曲全てを鮮明に記憶しているわけではありませんが、1808曲あれば、その曲の後ろから1808通り、90年代の風景が見えてくる。1808曲のメッセージを商業的に受け止めてきたアメリカという国の懐の深さも認識できるし、1808回の批判に晒されても何も変わらなかった彼らの鈍感さもまた体に沁みて理解できる。


乱暴な表現ですけど、そんな音楽ファンにしてみれば、最近の言論人が頻繁に用いる「テロ以降アメリカ社会は大きく変わった」などという発言は「MCハマーがポップ・ミュージックの歴史を変える」という言い切り程度の重みと予言力しか無いわけですよ。それが体でわかる、と。


同じ音楽ファンでも「自分だけのバンド」を持つファンの人達や「演奏者」「作曲者」であることを音楽好きとしてのアイデンティティにセットしている人達、つまり「1曲が世界を変える」と信じる人達との、ここは違いかも知れませんね。勿論、どちらが良い悪いじゃなくて。僕自身「演奏者」を自らのアイデンティティとして恃んでいる時期がありました。


なんだろう、結局年齢を経る毎に「演奏する音楽ファン」から「チャートを追う音楽ファン」へと変化してきたのって、大人になるにしたがって、主張者としての強さより、何かを受け入れる受容者としての強さを求められるようになったという事の裏返しなのかな。


自分にとっての「青春」「リアルタイム」であった筈の90年代が「投票」の対象になっている。そんな驚きの事態を前に、少しセンチメンタルになってみました。


大人になるってのはね、坊や、1808曲並べられないと自分の1位が決められない人になるってことなんだよ?