そして瓦礫の中で、僕たちは音楽を再び発見するだろう


レコード輸入権の問題を取り上げているサイトを良く見るので、一応音楽サイトとして僕も尻馬に乗ってみる。


単純な感想として、現在のCDは安すぎる、と感じている。


これは他国との比較ではなく、個人的な金銭感覚の話だ。だからといって幾ら値上げして貰っても構わないよ、というわけでは勿論ないけれど、国内盤の価格が1枚4000円均一になって、安価な輸入盤が一切国内に流通しなくなっても、僕はおそらく今と同じペースでCDを買うだろう。今まで購入してきた音源にそれだけの価値を感じているからである。


金銭感覚というのはプライベートな問題だから、ここで今回の法案に反対している人や「1600円でも高いよ!」と感じている人に対してコメントするのは避けたい。賛否どちらなんだと言われたら「容認だ」と答える形で、他人に干渉しないイメージ。グランジ世代ですから。


レコード業界の企業努力が云々といった話も、CCCD問題が絡んだりして収拾がつかなくなるので、ひとまず措く。諸外国にもある法律だという言い分には「じゃあそれを諸外国には無い再販制度と併用するのはどうなのよ」という疑問を覚えなくもないけれど、とにかくひとまず措く。


その代わりといってはなんだが、少し思い出話をしたい。


初めて外資系のレコード店が大都市圏に進出してきた頃の話だ。国内盤の概念を超えた安価な輸入盤は、まさに事件だった。全国津々浦々に存在した品揃えの悪い個人商店的レコード店が軒並み姿を消して、「まとめ買い」という概念が一般化して、「渋谷系」に代表されるような、安価で手に入れた膨大な音源で音楽武装した世代が音楽の作り手として登場した。あれは一種のカルチャー革命だったんだろう。


ただ、「安価で良いものが大量に手に入る」とだけ言えば聞こえはいいが、色々問題もあったように思う。


情報量が増えた結果として、必然的に商品のサイクルは短くなる。昔に比べてヒット曲のサイクルは短くなったし、音楽を「持てる者」と「持たない者」の格差が広がって、かつて国民愛唱歌として存在した歌謡曲は、凄まじい周期で入れ替わる流行りモノに敏感な、若者だけのJ-POP文化へと変遷していく。


当たり前の話だが、大人より若者のほうが貧乏である。外資レコード店の登場が全ての原因だとはとても思えないが、音楽市場がその主購買層を若者に定めてしまった時点で、今日の音楽不況は予定されたシナリオだったんじゃないだろうか。景気の動向や企業努力の欠如なんて、ちょっとした変数みたいなものだ。


シーズン毎に少しずつ価格を下げたり色のバリエーションを増やしたりするだけで、ユニクロのフリースが永遠に毎年800万着ずつ売れると信じる人はいないだろう。根っこは同じである。


それでは、仮に日本国内で安価な輸入盤が一切流通しなくなったら、どんな文化的未来が待っているのか、少し極端な想像してみよう。


首都圏の外資レコード店は壊滅的な打撃を受ける、とする。デートの途中でCDをまとめ買い、も難しい。2500円や3000円もするアルバムをまとめて何枚も買う男を見れば「そんな金あるんだったら今日のディナーかホテル代奢れよ」と愚痴のひとつも言いたくなるのが自然な流れだろう。


必然的に、レコード店は郊外へ移動する。流行に敏感な若者よりも金銭面で余裕のある、日曜日の子供連れにBOXセットを売りつける商法へのシフトチェンジ。買い物付き合うからさ、そこでおもちゃ見てていいから、パパちょっとあそこでCD探してくるな。


新しいものが売れる、という図式も、変わってくるかも知れない。レコード店が店頭に有名どころの新譜を積み上げるのは、単純に限られた店舗スペースの中で、いつ売れるかわからない旧譜を200種類揃えるよりも、浜崎あゆみを50枚在庫したほうが売れる確率が高いからだ。いや、高いと信じられてきたからだ。


郊外に移転すると、テナント料の問題などは多少制限が少なくなる。「話題の新譜」や「初動枚数」の金メッキは既に剥がれているし、価格が上って購買層が変われば、品揃えに対する考え方にも変化が生まれるのかも知れない。


音楽に関係なく、今後貧富の格差はますます拡大していくのだろうから、大都市圏の中心部では、逆に音楽が消えていくはずだ。外資レコード店が消え、カラオケが消え、大きなライブハウスが消え、J-POPを流せなくなったファーストフード店からスピーカーが消える。


但し、無音にはならない。垂れ流される受動的な音楽が消えたとき、僕たちはそれを能動的な音楽で補おうとするからだ。


スラム化した都市の、不法滞在外国人の壊れたラジオから聴こえるサンバに、焼肉店から漏れ聴こえるK-POPと中華ロック、そして日本に見切りをつけてタイやマレーシアで成功した日本人ディーバの逆輸入ポップス。そしてサイレンと怒号と銃声のミックス。


そこから生まれてくる音楽がヒップホップなのか、ロックなのか、それともまだ我々が知らない新しいジャンルの音楽なのか。僕には良くわからない。だけど、安価なCDで消費者を飼い慣らしていた世界が崩壊したあと、間違いなく消費者は音楽の生産者として再生する。


そして瓦礫の中で、僕たちは音楽を再び発見するだろう。