髀肉之嘆

インターネットも忘れて阪神戦に夢中でごめんなさい。


今日はなんの旨味も無い飛び石連休に備えるべく、少し崩していた体調を元に戻そうと風邪薬を貰いに医者へ行ってきました。会社の近くの。嘱託医、ってやつですか。


昼ご飯を食べてから、これまた風邪気味だった同僚の稲川さんと二人で行ってきたんですけど、この医者ってのが社員の中でも話題になるほど人の顔を見ないやつで。おじいさんなんで、ひょっとしたら首を上げる力がもう残ってないんじゃないかと思うんだけど、とにかく目を見て何かを話された記憶が全くないの。いつも人の喉仏あたりを見て「今日はどうしました?」「そうね、ちょっと顔赤いね」とか言ってさ。お前絶対俺の顔見てないじゃん、っていう。


ということで、どうせ連休前で仕事もあんま無いし、暇だから少しイタズラしてやろうかなって。同じ課の同僚何人かとちょっとした賭けをすることにしました。


僕と稲川さん、じゃんけんで負けたほうが額に「肉」って書いたポストイットを貼って診察を受けて、おじいちゃんドクターが気付くかどうか賭ける、ってやつね。あれ、昼飯のときに話してたときはすごい盛り上がったんだけど、文字にしてみると全然面白くないな。


で、僕は「気付かない」に賭けたんだけど、じゃんけんには勝ったので稲川さんが「肉」を貼ることになりました。ボールペンで「肉」って書きながら待っていると、診察券を出した順番で、僕より先に稲川さんが呼ばれます。


ポストイットが黄色のやつだったんで、それだけでもかなり目立つから、診察室に入る直前に付けて、「やー絶対気付かないよね、まじで」とか言いながら稲川さんが扉の向こうへと消えて約4分。診察室から真っ赤な顔をした稲川さんが飛び出してきて、僕に一声も掛けないで薬も受け取らず帰ってしまいました。あれ、どうしたの?


「次は島さん、島さんどうぞー」


看護婦さんに呼ばれて部屋に入ってびっくり。
「はい、お待たせしました。今日ね、ちょっとうちのおじいちゃん風邪ひいちゃって、わたしが代わりに診ますねー。○○(うちの会社の名前)さんの健康診断でお会いしましたよね。医者の不養生っていうんですか。ホントおじいちゃんも島さんも気を付けないとー。そういえば今診た方も○○さんの方でしたけど、稲川さんっていう、おでこに面白い張り紙付けてて笑っちゃったー。あれ、お友達の方ですか?」


そこにいたのは、去年の健康診断で僕が電話番号を訊いた妙齢の孫娘(普段は大学病院勤務)のほうでした。


「稲川、い、いや、ぜんぜん知らないなー」


この話の悲しいオチは、稲川さんがその松たか子似の女医さんに「肉」マークをばっちり見られてしまった、というところではありません。去年電話番号を訊いたあと僕が会社のひとたちと一緒にやった合コンに、稲川さんもばっちり参加していた、というところです。