この弟子にして

昨日仕事で大学時代すごく世話になった教授に会ってきました。
彼はそれこそ僕が3日前の日記で書いた「国際政治を何年学んだ」どころの騒ぎじゃない、その道の権威なわけで、まあ偶に新聞にコメントを求められたりもするひとなのです(あくまで頻繁にではなく偶にであるところがミソ)。


イラク戦争に関しても某紙に6行ほどのコメントを求められたと申しておりました(....6行て)。「6行で何が言えるっちゅうねーん!」で幕を開けた彼の居酒屋キレキレトークが結構興味深かったので、微妙に言い回しを変えつつここに載せておきます。


教授
反戦モードを演出したいときってさ、絶対新聞の場合、平和運動してる人とかに『論壇』みたいなスペースが回ってきて、政治学者は『攻撃に関する意見』とか、とにかく6行程度の欄しか来ないわけ。お、俺が小物だからじゃないぞ!」


しまけん(以下この順序で繰り返し)
「まあ、そういうことにしましょうか」


「でな、6行とかあってもさ、言うことねえじゃん。しかも『分析』じゃなくて『意見』なわけ。『戦争はいつ頃終わりますか』じゃなくて『戦争についてどう思いますか』なわけ。そんなの街のおばちゃんに訊いても国際政治学者に訊いても『戦争はよくない』程度しか言わないに決まってんじゃん?6行で世界情勢とか説明できないしな、テレビに出たら多分1分とかだろ」


「基本的に知識じゃなくて感情を求めにきてるってことですか?」


「うーん、求めにきてるとまで恣意的なものは感じないけど、やっぱり学者は不利だなあって思うよ。肩書きが豪華なわりに意見が『平和を祈りたい』とかだったら、やっぱ新聞を読んだ人は俺らのこと大したことねえなって思うわけじゃない?」


「なんか段々戦争から保身の話になってきてますけど」


「いやいや、そうじゃない。これは大事な話だよ。昔は街のおばちゃんだって『平和を祈りたい』なんて言わなかったんだもの。中東戦争とかイラン・イラク戦争のときのこと、覚えてるでしょ」


「あんまり。生まれてすぐの頃ですもん」


「当時は一般の日本人にとって中東戦争なんか単純に政治と経済の問題だったのよ。アラブのほうでターバン巻いたひとが戦ってるらしい、って程度の政治問題と、ガソリンは値上がりするかしらっていう家庭の経済問題な。市民レベルじゃ誰も反戦平和とか感情的に盛り上がってるひともいなかったし、純粋にみんな戦争がいつ終わるのか、分析を知りたがってた。あの頃は学者は楽でしたよ」


「はあ、そういうもんですかね。先生も駆け出しの頃ですよね」


「もう結婚してたけどね。ところが最近はさ、みんなテレビで映っちゃうじゃない?バグダッドの市場で爆弾落ちて死んだ子供とか、劣化ウラン弾の影響でおかしくなっちゃった子とかさ。イラク戦争が世界の一大事とか、自分も発言しなくてはいけない重大な人権問題みたいに勘違いしちゃうわけだよね、庶民が」


「おいおい蔑視発言だよ(笑!」


「いいのいいの。さっきインターネットに載せるとか言ってたけど、絶対6行とかに纏めたらいかんぞ。全部載せろ。あと蕎麦焼酎をもう1本な。これは経費で落ちる?俺は絶対払わんからね!」


「....俺の金でボトルキープする気っすか!しかも焼酎を!」


「まあまあ、そう市民団体みたいに喚かんと。ただな、話を戻すと『世界の一大事』みたいに勘違いしちゃうってのは、本当は自分たちの生活にあんま関係が無いからなんだよね、イラクとか。感情だけの一大事なのよ。しかも結果的にここまで戦争反対・容認と陣営が分かれちゃったら、悪気は無くても皆自分に都合の良いデータしかみないしね。だからみんな感情のやり場を求めてるだけで、分析なんか必要ないわけ」


「なるほど、そして先生は僕に勘定のやり場を....」


「うまい!こりゃ1本取られたね。もう1本取りますか。すいませーん、熱燗もう1本ー!急いでねー」


「えー!」


「色々勉強になって良かったじゃない。でまあ、そんなわけで俺は新聞のコメント依頼を断ったわけだよ。だからマスコミに君が師匠と崇める俺の意見が載ってないわけね。け、決してオファーが来なかったわけじゃないからね。そこのところを履き違えないようにね、君。あと領収書の宛名は何にするんだったかな?」


本当に奢らされました。
誰が何と言おうと、やっぱり学者は糞だと思います。