帰って来た猿蓑

同じ屋根の下に暮らしている父親から、今日年賀状が届きました。


「なにこれ? イタズラ?」
仮に鹿児島と北海道ほど離れて暮らしている親子でも、年賀状を送り合うなんて他人行儀な話は聞いたことがありません。てっきり父親が故意にやったのだと思い、向こうから何か言ってくるまで放っておくことにしました。や、普段は結構お茶目な男なのですが、調子に乗らせると付けあがるからね。


父親は何も言わず、こたつで蜜柑など食べながら、自分に届いた年賀状の整理をしているようです。「あー、〜さんの子供さんも大きくなったねー」などなど。お前、俺に出した年賀状のタネ明かしはいつだよ。


しばらくすると父親が大きな声を挙げました。


「ほら、けんちゃん!これ見て!お父さんと同じ絵柄の年賀状を使ってる人がいるよ!既製品だとこれがあるから嫌だなあ」


暗に「パソコンでお父さんの分も年賀はがき作ってくれ」という頼みを断った僕への厭味のようです。だけどね、親父。サイトのデザインまで人任せの俺に年賀はがきのデザインなんて出来るわけないでしょ。


そう言い返そうと思ったときのことでした。


「この年賀状、誰から来たのかなあ。きっとお父さんとデザインのセンスが似た人に違いないね。…ん、あ? 」


父親と同じ絵柄の年賀状、その差出人の名前を確認していた父親の動きが完全に止まりました。どうした、親父。ひとり時間差で餅でも喉に詰めたか?


「お父さんからだ…」


差出人のところには父親本人の名前が書いてありました。
うちの父親から、うちの父親に出された年賀状。


父親は今年初めてパソコンの住所録を使って、プリンタで宛名を印刷して年賀状を作ったのですが、どうも間違えて住所録に入っていた自分にまで年賀状を出してしまったようです。勿論、僕に届いた年賀状も同様のミスによるもの。まあ、息子や自分を住所録に登録する時点で大概どうかと思うわけですが、百歩譲って投函前に気付けよ。


ちなみに、母のところにも届いていました。お父さん…。