KUSAYA has come

名産物が干物、特にくさやという呪われたデビルズアイランドに生れ落ちた男、稲川さんが僕の職場の同僚となって1年。
諸葛孔明三顧の礼すら可愛く見えるほどの固辞に次ぐ固辞も実らず、昨日ついに根負けして彼の帰省みやげにして伝説の食材、くさやを受け取るハメになってしまいました。


「食べてみたら絶対美味しいから!きっと好きになるよ!」


どうしてエキセントリックな名産物を抱えている地方の出身者に限ってこうも其の布教に熱心なんですかね。お前は世界くさや教か。


確かにくさやって今まで1度も食べたこと無いし、食わず嫌いって言われればそれまでなんだけど、くさやと言えば今や「さや」の付くものの中では紀宮様サーヤ!)の次に買い手が付かない、臭うと噂のロイヤル困ったちゃんだろ。


魚臭いの(イカの塩辛etc.)と腐った臭い(納豆etc.)が全くダメで食べられない僕には試すまでも無くアウトなのが目に見えてるんですよね。大体このイエメンに輸出されるスカッドミサイルのような念入りな梱包はなんだよ。
明らかに食い物を包むテンションじゃないっつーの。


しかしまあ僕も男ですので。
一旦受け取ってしまった以上後には引けません。


僕と同じように無理矢理稲川さんからくさやを押し付けられた同僚たちに「絶対捨てたりすんなよ」「事故にでも遭ったと諦めて一緒に食おうぜ」と声を掛け、一人暮らしをしている同僚の家で皆揃って「くさやパーティ」を催す運びとなりました。


「それじゃ焼きまーす」
しかし、待っていたのは想像を遥かに超えた世界でした。


ほどなく部屋に立ち込める動物園のラクダの檻を彷彿とさせるような不快臭。


「俺やっぱ無理だわ」「ごめん、皆で食ってくれ」そう言い残して一人また一人と脱落する7人の侍どもを尻目に何とか一口食べたところで記憶が消えました。
気が付いたら満員なのに何故か僕のところだけ微妙に隙間が出来ている西武新宿線の車内にいた。ナニ?ボクガクサイノ?


翌日「な、結構美味しかったろ」と稲川さんに聞かれた皆の無口っぷりと言ったら。


「ええ、まあ…」
超小声。今日からお前ら全員あだ名は「ワドル艦長」に決まり。


しかし全く恐ろしい食品ですよ。
昨日全員風呂に入ったのに、さっき他の階から僕らの部署に顔を出した事務の女の子が「な、なんか臭い」と一言発して逃げるように去って行ったからね。
石鹸で洗っても取れないって、一体どんな呪いの込められた干物だよ。


「そんな酷いこと言うなって。いい島だぜー。毎晩くさや食えるし」


島ごと海の底に沈みやがれ。或いは島民全員北朝鮮に拉致。
くさやはミサイルとしてインド洋経由でイエメンに。空母の代わりにお歳暮を!